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憲法改正上下両院合同会議(コングレ)傍聴記

 7月21日(月)、ヴェルサイユ宮殿の一角で上下両院合同会議(コングレ(Congrès))が開催され、憲法89条所定の改正手続に則り、第五共和制憲法(1958年)を改正する憲法的法律が可決されました。通算24回目の改正で、実は今年2回目の改正になります。今年2月の改正は、リスボン条約を批准するために同条約と抵触する点を改正するというものでしたが、今回の改正は、憲法の全条文の半数ほどに手が入る、第五共和制憲法史上最大の改正でした。内容については、以前このブログでも紹介したように3つの柱(執行府に対する統制の強化、議会の権限強化、新しい市民の権利)からなるものですが、その後の審議中でその他にも多くの修正・追加がなされています。詳細は別途紙媒体で紹介する機会を頂けそうなので、幸運にも今回のコングレを傍聴することができたこともあり、今回は傍聴記ということで(簡単な紹介としては下記記事(日本語)を参照)。なお、この模様のビデオはこちら
    http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20080722-OYT1T00614.htm

 もちろんコングレも議会ですから、立憲主義議会の常例通り、このコングレの手続も公開されています(議事規則7条)。とはいえ、当日に直接議場に行って入れるものではありません。今回は知人の公法の先生にお願いして傍聴券を確保してもらいました。
 この傍聴券ですが、コングレ当日の数日前に突然電話が鳴り、「下院の事務局だが、国民衛兵が本日傍聴券を届けに行くが、何時なら自宅にいるか」という連絡が入りました。郵便ではなく、直接配達されるのですね。国民衛兵(Garde républicaine)といえば、しばらく前に7月14日のパレードで見たそれを思い出します(http://fr.wikipedia.org/wiki/Garde_r%C3%A9publicaine_(France))。
 こんな装いでやってくるのかと半分楽しみに待っていたら、やってきた人はこんな感じでした。

DSCN1150.JPG
 それでようやく当日の話ですが、会場がよくわからないので、とりあえずヴェルサイユ宮殿の正面の門のところに行ってみると、警備担当者がたくさんおり、この日は宮殿の見学は休止だったようです(左下写真(月曜日はもともと休みなのでした(後日追記))。警備担当者に入り口を聞いてみると、外壁沿いに南側に回れとのこと。観光客は宮殿正門入り口を入って左手の建物でチケットを購入するのですが、議場はその裏手(南側)の棟になります(さらに南側から外観を撮ったのが右下写真)。数年前までは、おそらく宮殿のこの部分は議会博物館として公開されていたようですが、今は公開されていないようです。ただ、ネット検索では、当時の案内が引っかかりましたので、ご覧下さい(下記URL)。
    http://www.assemblee-nationale.fr/histoire/7cb.asp                          

  DSCN1154.JPGDSCN1157.JPG     

 議事は15時開始の予定と聞いていたのですが、果たしてなかなか傍聴席に入れてもらえず、席につけたのは15時半近くになってからでした。周りの人々を見ていると、傍聴券は2種類あって色の違いで区別されており、一般の傍聴者は議長席から見て両脇の傍聴席、特別の傍聴者は議長席正面の席に案内されるようです。今回は後者の傍聴券を手配していただいたようで、議長席(演壇)の斜め前正面という良い席で議事を見ることができました。

DSCN1168.JPGDSCN1160.JPG

 議場は、フランスの上下院の本会議場、さらには日本の衆参両院の本会議場と同様の半円形の構造で、ヴェルサイユ宮殿の一般公開されている箇所と同様、おそらく大理石の壁に金を多用した豪華な内装が施され、さらに議長席上方の壁には大きな絵が掲げられています(右上写真)。上記の議会博物館のサイトによれば、これは、1789年開催の全国三部会における財務総監ネッケルの演説の場面を描いたものだそうです。また、写真にはありませんが、この絵の両側にはゴブラン織の大きなタペストリーが掛けられています。
 15時半近くになっても、議員たちはなかなか席に着かず、ざわざわとしていましたが、「ムッシュー・プレジダン」という声と共に、議長をつとめる下院議長が席に着くと、議員たちもようやく席に着きました。面白いのは、議員たちの座席が、通常の会派別ではなく、アルファベット順であることです。明示的にはあまり言われないと思いますが、憲法改正の場合に限ってわざわざ議論の場をヴェルサイユに移すことと並んで、憲法改正については、党派的な利害ではなく、一般の利益を基準に議論すべきだという二元的発想を象徴的に示しているかのようにも見えます。
 議長が議事開始を宣してすぐに、まずフィヨン首相が登壇、30分ほど演説を行いました。憲法改正を可決するためには投票数の5分の3の多数が必要なのですが(憲法89条3項)、実は今回は票読みが実に微妙で、この日の直前にサルコジ大統領が小会派取り込みを狙った譲歩を行ったほか、大統領自身も加わって議員の説得工作が前代未聞の激しさで行われていたとの報道があります。また、直前期には、首相が、否決された場合でも自分は辞職しないと発言をしたのも、可決が微妙な状況を示すものでしょう。こうなったのはとりわけ最大野党の社会党が、内部に対立を抱えながらも反対を決めたことによるのですが、首相の演説も、党派的利害よりも、共和国のことを考えるべきだと妥協の重要性を強調するものでした。フィヨン首相の演説で議場がもっとも盛り上がったのは、後半、「市民に違憲審査の申し立て権を認めることを諸君は望みますか?」といった具合に、改正の主要なポイントを列挙して議員に質問を投げかけたときでした。Ouiという声とNonという声が交錯し、議場のテンションが一気に上がったように思われます。
 その後は、上下両院の各会派の代表が、くじで決めた順序により、それぞれ10分ほど賛否の演説を行いました。当然ですが、同じ政党でも、上下両院で別々の会派ですので、演説も別です。『第六共和制憲法』という共著もあるこの問題に関しては社会党きっての論客アルノー・モントブール議員の若さ溢れる勢いある演説や、最後に登壇した下院の与党UMPフランソワ・コペ議員の貫禄ある演説が印象的でした。

 演説が終了すると、投票に入るのですが、意外なことに投票は議場外の別室で行われるとのこと。そのため、議長は45分間の休会を宣言し、議員たちはぞろぞろと退場していきました。なお、報道によれば、代理投票が認められているようで、社会党ファビウス元首相など、当初から欠席の議員も少なくなかったとのことです。
 45分後の18時15分頃、議事は再開したのですが、開票作業を手作業で(も)行うということで、すぐにまた休会。18時半ころ再開し、議長から投票結果が告知されました。定数906、投票数896、賛成539、反対357。可決に必要なのは538票ですので、わずか1票上回っただけの薄氷の結果でした。
 与党UMP、最大野党社会党ともに造反者を出しましたが、最大の波紋を呼んだのは社会党のジャック・ラング元文化相の賛成票でしょう。ラング氏はもともと憲法改正提案の諮問を受けたバラデュール委員会の委員でもあり、自身も賛成した提案を多く取り入れた憲法改正案に賛成するのは一貫しているといえば言えるのですが、結果的にわずか1票差での可決ということで、彼が反対していれば…という批判が社会党の中で出されるのも理解できるところです。特に最近諸々のことでお騒がせの元大統領候補セゴレーヌ・ロワイヤル氏などは彼を裏切り者よわばりしています(下記記事(日本語)参照。なお、「パブロフの犬」発言はフィガロ紙によれば社会党議員のもの)。
   http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080724-00000083-san-int
 ただ、今回の憲法改正に対する社会党指導部の態度については、党内外から多々疑問の声があります。それは、個別に見ればかつて社会党が与党時代に提案したアイデアがかなり取り入れられていたことや、改正の方向性自体に反対なのではなく、それが「不十分(不徹底)」であることを理由に反対を決めたことによるもののようです。そこで、党内には賛成すべきだという議員も相当数おり、それが今秋の第一書記(党首)選挙に関する思惑とも絡んで、内部対立が激化しているといわれます。ラング氏も指導部からは非難されていますが、総すかんというわけではないようです。


 今後、憲法条文の改正に対応して、それを具体化する憲法付属法(法律、デクレ、議院規則)の改正作業が行われることになります。注目点の1つである違憲審査の改革についても、憲法条文では具体的な制度設計が明らかではなく、法律がどのような内容になるのか注目されます。
 他方、憲法改正に関しては、本年4月にもう1つの諮問委員会が設置されています。それは、シモーヌ・ヴェイユ元大臣・元憲法院裁判官を長とし、憲法前文の見直しの検討を任務とするものです。今回の改正作業で役割を果たしたバラデュール委員会とは異なり、ヴェイユ委員会はあまり活動状況が報道されないのですが、最近の報道によれば、積極的差別(discrimination positive(アファーマティブ・アクション))の明文化が1つの論点になっているようです。


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